サイレントハンディキャップとも言われる「原発性局所多汗症」。社会的認知度が低く、本人も家族も体質だと諦め、幼少期より悩む子どもが多い難病の一つです。多汗の部位は人によって様々ですが、起床から入眠まで汗が局所から過剰に出るため生活に支障をきたします。例えば掌の場合、プリントを配る、切手を探す、マイクを持つ、握手をするといった誰にでも造作なくできそうなことがスムーズに行えないため、日常における QOL が極めて低い病気の一つと言われています。

原発性局所多汗症は厚生労働省の指定難病以外の「難病等」に該当するにもかかわらず、病気としての認知度があまりにも低いのが現状です。そのため、患者ですら治療を受けられることも知らず、不快と不便を感じながら暮らしています。また、汗は目に見えるため、恥ずかしさから周囲に知られないよう隠す傾向にあるのもこの病気の大きな特徴です。結果として、同じ病気で悩む人と出会うこともなく、家族にも理解されず一人で孤独に悩む人が少なくありません。さらに、たとえ本人が多汗症について積極的に調べ難病であることを知り得ても、安心して相談できる場や受け皿が容易に見当たらないという課題もあります。

以上のような課題を解決するために、まず「多汗症という病気がある」との認知を形成し、本人が望めば医療機関を受診できるよう促すことが不可欠です。そして患者やその家族が安心して症状について相談したり、治療法について経験者の話を聞いたり、精神的に支え合ったりすることのできる受け皿の存在が切望されています。現状、多汗症の相談先は専門医か面識のないオンライン上の個人の二択しかなく、プライベートを犠牲にしてまで相談に対応している方もおられます。相談先として NPO 法人が加わることで、そうした方々の負担を軽減できるだけでなく、正しい情報提供にも結実します。それは、不可逆な治療に踏み切る前の熟考にも貢献します。顕在的患者と潜在的患者がともに求めているのは、多汗症について相談したい時に安心して相談できる、多汗症の人のための居場所なのです。

私達の前身である手汗の子ども達サポート有志の会は会員メンバー自身の子ども時代の経験から、多汗に悩みながらも解決策を見出せない小学生や保護者に向けてパンフレットを作成しました。パンフレットが目に留まるよう、手に取ってすぐ読めるよう、敢えて紙媒体にて作成し、現在、小学校やクリニックにて配布していただいています。この活動をきっかけに、一方通行の発信だけでなく、全国の患者が私達といつでも安心して気軽に繋がれる双方向の居場所づくりのために HP も開設しました。加えて、若い世代により手軽な SNS のアカウントも開設し、患者がつぶやく悩みに素早く反応できるよう努めています。そして、現在、各都道府県別に多汗症を専門的に診ることのできる医療機関リストの作成を企画しています。患者の中には治療を望みながらも、様々な理由で諦めている人も一定数おられます。患者が治療を受けたいと思った時に、すばやく行動できる一助となるよう、私達は汗をかく所存です。

この度、NPO 法人設立を決断した理由は以下の三点です。一点目は、患者の相談先として肝要な信頼性は個人よりも組織の方が高いことです。前述の通り、多汗症という病気が知られていないこともあり、「汗かき程度」といった先入観を持つ方がおられます。そのような認識を書き換えるところから、私達の活動をスタートしていきたいとの考えです。継続的な労力を要する活動には、個人よりも組織、任意団体よりも NPO 法人の方が信頼性・継続性・機動性の点で相応しいと判断しました。二点目は、患者保護のためです。インターネットや SNS など情報技術の発展とともに、多汗症に関して情報発信される個人・組織はないわけではありません。ただし、治療法に関する事実誤認の情報提供もあれば、副作用の言及がない個人的治療経験の披露もあり、発信される情報は玉石混交です。そのため、深く考えずに治療を選択した方が深刻な「代償性発汗」になり苦しんでいるケースもあります。NPO 法人という責任を伴う団体として情報発信することで、こうした情報ギャップを埋めることができます。責任ある情報提供には、患者が知りたいことだけでなく、知らなければならないことにも触れる機会を作る必要があります。そのために責任感と安心感のある団体の設立を意思決定いたしました。三点目は、継続的且つ積極的な活動に資金が必要なためです。多汗症はまだ、病気であることを自覚している患者の数が少ないかもしれません。しかし、少ないからこそ手を差し伸べる団体が必要であることを、これまでの活動から実感しました。資金がネックで手を差し伸べることができなくなることのないよう、活動を安定的に継続することができるよう NPO 法人化を決意しました。

私達は、多汗症であっても、制限なく本来の力を発揮できる、生きやすい社会を目指します。

申告に至るまでの経過
令和3 年1 月3 日 前身の任意団体「多汗症を考える会」発足
令和3 年3 月10 日 前身の任意団体「手汗の子どもサポート 有志の会」発足
令和3 年10 月10 日 小学校向けパンフレット「手のあせで困ってない?」配布開始
令和3 年11 月29 日 特定非営利活動法人「NPO法人多汗症サポートグループ」設立発起人会開催
令和3 年12 月12日 特定非営利活動法人「NPO法人多汗症サポートグループ」設立総会開催

前身団体​「手汗の子ども達サポート有志の会」